高度な数理モデル用い開発された金融工学の歴史を叙述した本

高度な数理モデル用い開発された金融工学の歴史を叙述した本
NEWSポストセブン2013.10.23 16:00

http://www.news-postseven.com/archives/20131023_222580.html

【書評】
『ウォール街の物理学者』ジェイムズ・オーウェン・ ウェザーオール著、高橋璃子訳(早川書房 2100円)


『ウォール街の物理学者』ジェイムズ・オーウェン・ ウェザーオール著、高橋璃子訳(早川書房 2100円)


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物理学者はいかにして「予測不能」な市場を読むのか?

いまウォール街では、従来の金融業界とはまったく異質な “クオンツ"と呼ばれる人びとが席捲している。物理学や数学の博士号を持つが、金融の専門家でも経済学者でもない。2008年の金融危機後もなお、高度な理論を駆使して圧倒的なパフォーマンスをあげる彼らの手法には批判の声もある。だが、クオンツたちは本当に悪者なのだろうか? そんな小さな疑問をきっかけに、好奇心に導かれて探求を進めていった著者は、思いもかけない深遠で魅力的な物語を発見していく。そこには、一見するとまったくランダムに見える株価や相場の動きを予測すべく全力を傾けてきた、数々の天才物理学者・数学者たちの姿があった――理論的思考と人間的洞察を兼ね備えた視点でウォール街の最先端を読み解き、経済と金融の未来を展望する、気宇壮大な科学ドキュメンタリー。


ウォール街の物理学者
早川書房
ジェイムズ・オーウェン・ウェザーオール

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ウォール街の物理学者 [ ジェイムズ・オーウェン・ウェザーオール ]
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ハヤカワ・ノンフィクション ジェイムズ・オーウェン・ウェザーオール 高橋璃子 早川書房発行年月:20


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・発売日:2013年09月07日
・著者/編集:ジェイムズ・オーウェン・ウェザーオール
高橋璃子
・出版社:早川書房
・サイズ:単行本
・ISBNコード:9784152093974

【内容情報】
物理学・数学のエキスパートでありながら、コンピュータと理論を武器にウォール街を席捲した“クオンツ”たち。金融界にとっては異分子の彼らが、なぜ破格の成功を手にしたのか?「予測不能なもの」との知的格闘が、八方ふさがりの危機に突破口をひらく!

【目次】
イントロダクション 不可能を可能にした男
第1章 パリの孤独な天才
第2章 鮭の泳ぎと株価のゆらぎ
第3章 海岸線の長さはどれくらい?
第4章 ディーラーをやっつけろ!
第5章 物理学がウォール街にやってきた
第6章 サンタフェ街道の予想屋たち
第7章 ドラゴン・キングの足音
第8章 新たなるマンハッタン計画
エピローグ 経済の未来を救うために

【著者情報】
ウェザーオール,ジェイムズ・オーウェン(Weatherall,James Owen)(ウェザーオール,ジェイムズオーウェン)
物理学者、哲学者、数学者。カリフォルニア大学アーバイン校助教授。ハーバード大学卒業後、スティーブンス工科大学およびカリフォルニア大学で博士号取得。時空理論の数学的・概念的基礎を中心に幅広く研究を進める傍ら『USAトゥデイ』『ボストン・グローブ』『サイエンティフィック・アメリカン』などに一般向け科学記事を寄稿。若手サイエンスライターの旗手として注目を集めている

高橋璃子(タカハシリコ)
翻訳家。京都大学卒業

【評者】鈴木洋史(ノンフィクションライター)

世界金融危機の最中、激しく非難されたのが「クオンツ」だった。高度な数理モデルを用いて複雑な金融商品を開発し、市場を分析して投資戦略を立てる専門家のことで、最先端の物理学や数学を学んだ人間が多い。

 近年のウォール街に君臨するが、その手法が金融市場を暴走、暴発させたとして批判された。その際によく引用されたのが17世紀イギリスの株価暴落で大損したアイザック・ニュートンの言葉で、本書でも紹介されている〈星の動きは計算できるが、人の狂気は計算不能だ〉。

 自らも物理学者である著者は、そんなクオンツ悪玉論に疑問を抱き、そもそも物理学や数学と金融はどうつながっているのか、なぜ物理学者や数学者はウォール街に飛び込んだのかそれを明らかにするため、重要な役割を果たした学者たちの人生と理論を軸に金融工学の歴史を叙述した。

 物語は、19世紀末のパリで初めて確率論を用いて株価を予測したフランス人(ルイ・バシュリエ)から始まる。パリ大学に入学するつもりだったが、すでに両親はなく、田舎の妹と弟に仕送りする必要があった。そこで、大好きな確率論を応用できると考えて証券取引所で働き始め、やがて投資理論を確立する。

 だが、学者としては不遇で、理論が正当に評価されたのは半世紀以上あとだ。1960年代から今日に至るまで投資の実践で並外れた実績を作ってきたアメリカ人(エドワード・ソープ)は、子供の頃、家が貧しく、まとめ買いした粉ジュースをバラ売りして稼ぐなどしていた。長じてカリフォルニア大学大学院に進んだが、生活が苦しく、ルーレットを研究して荒稼ぎするなかで理論を確立した。

 1990年代に複雑系の理論を投資に適用する投資会社を設立した2人のアメリカ人(ジェームズ・ドイン・ファーマー、ノーマン・パッカード)は、ベトナム反戦思想の影響を受けた反体制派で、会社を設立したとき「EAT THE RICH」とプリントしたTシャツを作った。他にも、大学を追い出された異端の学者、地震予知の手法から株価暴落を予測する方法を発見した学者などが登場する。

 最初から経済や金融を専門とする従来型のエリートと異なり、波乱の人生を送ってきた人間臭いクオンツが多い。根底で共通するのは、カネへの欲求というより、市場という予測不能なものを予測可能なものしたいという知的欲求である壮大な物語の中で、クオンツたちのそうした興味深い姿が浮かび上がってくる。

※SAPIO2013年11月号

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