【高橋洋一「ニュースの深層」】 経常収支赤字で日本経済が危ない」は俗説!マスコミ報道に騙されるな

高橋洋一「ニュースの深層」
経常収支赤字で日本経済が危ない」は俗説!マスコミ報道に騙されるな
現代ビジネス2014年02月17日(月) 高橋 洋一

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/38394

元財務官僚発言のウラに財務省の思惑?

為替の円安が進んでいるのに輸出が伸びない、貿易収支が改善しない、などと指摘する論評がある。元財務官の渡辺博史・国際協力銀行(JBIC)総裁は14日、日本が昨年12月まで3カ月連続で経常赤字になったことについて「2月まで赤字が続くようだと経常黒字(国)という(日本の)根源的な強さがひっくり返るかもしれない」と都内の講演で語った。

同氏は、海外できちんとした教育を受けたにもかかわらず、経常黒字が国の強さであるという経済学的にはトンデモなことを言うとは、組織として財務省からの指示でもあったのかと邪推してしまう。

なにしろ、安倍政権になってから、官僚の天下り復活攻勢は凄い。昨年6月に杉山秀二氏(元経済産業次官、65)が商工中央金庫社長に、10月に細川興一氏(元財務次官、66)が日本政策金融公庫総裁に、12月に渡辺氏(元財務官、64)が国際協力銀行総裁に就任した。最後の渡辺氏は、国際協力銀行総裁ポストを官僚出身者にふさわしいと天下り推進を公言した。

同氏の教育レベルは高いが、その知見を組織のために使うタイプではないだろうか。官僚に成り立てのころは、そんな経験は誰にもあるだろう。何を隠そう筆者にもあった。

筆者は1980年に入省したが、その直後、大蔵省は日米摩擦との関係でISバランス論に悩まされていた。そこでISバランス論に対抗する考え方をひねり出せないかと、省内若手に声がかかっていた。

ISバランス論とは、経常収支は貯蓄投資バランスに等しいことから、経常収支を縮小するためには国内投資、なかんずく「政府投資を増やすべし」が導き出される考え方だ。米国はこの点を指摘し、日本に公共投資増を求めていた。

まず、経常収支は貯蓄投資バランスに等しいのは否定できない。国民所得=消費+投資+経常収支と定義されるが、(国民所得-消費)-投資=経常収支、つまり貯蓄(=国民所得-消費)-投資=経常収支となるからだ。問題にできるのは、両者の因果関係である。

通常は、貯蓄が習慣的なものなのでなかなか変動しないかわりに、投資はずいぶんと動くので、投資の多寡が経常収支を決めることがしばしばだ。しかし、この因果関係は決定的ではないので、そこに活路を見出して、ISバランス論で言う経常収支=貯蓄-投資、という関係は一方的な因果関係を示さないといって、相手を混乱させるのがいい、と当時若かった筆者は省幹部に話したことがある。

当時でも今でも同じだが、公共投資が必要だというロジックがあると、とりあえず反論しておき、それでも頼まれたら、相手に恩を着せて公共投資予算を認めるのというのが、財務省の一貫した考え方である。筆者の便法は、そのはじめの反論に使われたのに過ぎないとわかるまでに、時間はかからなかった。

赤字=損という「重商主義の誤謬」

いずれにしても、当時の大蔵省は表に出ずに、ISバランス論はおかしいといっていた。しかし、さすがに、経済学者からみれば、その論法はあまりにお粗末なので、経済学者で言う人はいなかったと思う。

当時、筆者は、経常収支の黒字そのものはたいした話でないと言えば、経済学者も大蔵省の主張に賛同してくれるともいった。ただし、当時の上司は、相手が米国で、政治的に日本に圧力をかけてきているので、意味ないだろうということだった。しかし、大蔵官僚は法学部出身ばかりなので経済学は苦手で、経常黒字がよくて赤字が悪と思い込んでいる感じがした。

もっとも、筆者の記憶では、渡辺氏は経常収支の黒字、赤字がさしたる意味がないことをよく理解していたように思う。

多くの人は、前提として、貿易で儲かる=黒字、貿易で損する=赤字という貿易を行う会社の業績と業態に関して使われる企業の黒字・赤字をそのまま貿易黒字・赤字と考えてしまっているのだろう。貿易黒字といっても、財貨を輸出して代金をもらっているだけ。国内で消費すべきものを輸出して、消費機会が失われてハッピーなのだろうか。消費してハッピーなので、代金をもらってハッピーなはずない。

貿易収支または経常収支の黒字を「得」なこと、赤字を「損」なことと考えるのは経済学にとって初歩的な誤りで、それを「重商主義の誤謬」という。貿易収支の黒字は輸出のほうが輸入より多いことで、別に国にとって得でも損でもない。カナダのように経常収支が100年以上もほとんどの年において赤字でも、立派に発展してきた国もある。アイルランド、オーストラリア、デンマークなどの経常収支は第2次世界大戦以降、だいたい赤字であるが、それらの国が「損」をしてきたわけでない。

マスコミ記事は、経常収支赤字になると理由なしで日本経済はダメと思い込んでいるモノが多いが、そうした素人記事は読む必要ない。たまに、経常収支赤字になると経済成長しなくなったり、金利が上昇するという人もいるが、これらはデータで否定される。

最近20年間における経常収支対GDP比と経済成長率の関係、経常収支対GDP比と金利の関係をそれぞれ世界各国で調べると、以下のグラフのとおりである。

画像


画像


このグラフで分かるように、世界全体を見ても経常収支赤字国は多いが、それらの国で成長率が低かったり、金利が高かったりということはない。経常収支赤字国といっても、経済成長や金利は経常収支黒字国とほとんど変わらない。要するに、経常収支が赤字になっても、まともな経済運営さえすれば問題ないわけだ。経常収支赤字になって日本経済が危ないという人には気をつけたほうがいい。

原発再稼働推進、消費税増税への批判回避が狙いか

こうした基礎知識を得た上で、最近のデータを見ておこう。

2011年12月~2012年11月の1年間をアベノミクス前、2012年12月~2013年11月の1年間をアベノミクス後とし、1年間における1ヶ月平均の数字でアベノミクス前後のデータを押さえておこう。

貿易輸出額は前5.2兆円、後5.5兆円、輸入額は前5.6兆円、後6.3兆円であり、貿易収支は前▲0.4兆円、後▲0.8兆円。貿易サービス収支は前▲0.7兆円、後▲1.0兆円。所得収支は前1.2兆円、後1.4兆円。経常移転収支は前▲0.1兆円、後▲0.1兆円。経常収支は、貿易サービス収支、所得収支、経常移転収支の和なので、前0.4兆円、後0.3兆円である。

これらのデータを見る限り、アベノミクスの前後1年間を比べれば、輸出があまり伸びていない、貿易収支が改善していないのはたしかだが、所得収支が改善し、経常収支はそれほど悪化していない。

この解説としては、輸出は円安になってもすぐには増加しない(いわゆるJカーブ効果)というものもあるが、最近では為替はあまり輸出には効かなくなっているので、やや弱い。むしろ、ここ二十数年間で円高傾向であったために、輸出企業の海外移転が進んで輸出が円安に反応しにくくなり、その一方で、海外進出の結果として所得収支の改善が見られる、といった説明のほうが説得的だ。

筆者は、貿易収支または経常収支が赤字になると危ないなどと、経済学に素人のマスコミがはやし立てるのはそれほど心配していないが、わかっている人までが言い出した。これには何かウラがあるのかと考えてしまう。

「経常赤字になると危ない」説は素人受けするし、真偽は別としても、官僚の政策遂行には使えることがある。例えば、原発再稼働だ。原発再稼働して、少しでも経常赤字にならないようにしたいといえば、数字を上げるとくだらない話でも、マスコミを騙すには十分だ。

さらに、消費税増税で景気の腰折れが懸念されるが、それも消費税増税以外の要因に責任転嫁できる。冒頭の渡辺氏の講演で、アベノミクスの第3の矢である成長戦略が進展しなかった場合に問題になる、と言っていた。成長戦略は長期的な政策だ。実際にやり出してみても、すぐに効果が出るはずない。

官僚主導のいわゆる「産業政策」は、これまで成功したためしがない。民間主導の規制緩和でも、やり始めて3~5年くらい経過しないと成果は出ない。そんなものを景気の変動の説明に使うことすらおかしな話だ。責任を転嫁したいときに、無理なモノに原因を求めるいつもの手法である。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック