伊藤忠商事、「1.2兆円大勝負」の内幕   中国政府との知られざる攻防

伊藤忠商事、「1.2兆円大勝負」の内幕
中国政府との知られざる攻防

西村 豪太 :週刊東洋経済 記者 2015年01月22日

http://toyokeizai.net/articles/-/58628


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三菱商事、三井物産追い上げに意欲を見せた岡藤正広・伊藤忠商事社長(写真:ロイター/アフロ)

タイの華人系財閥であるチャロン・ポカパン(CP)グループとの資本提携から半年。伊藤忠商事はCPと組んで中国の国有コングロマリットである中国中信(CITIC)に1兆2040億円を投じることを決めた。伊藤忠の負担額は6020億円。同社にとっては自己資本の4分の1に当たる額だ。

香港に上場するCITICは、中国政府が100%出資する中信集団の中核子会社だ。伊藤忠とCPグループが折半出資する企業が今年4月と10月の二段階にわけてCITIC株の23.4%を取得する。伊藤忠は所要資金を銀行借り入れで調達するため、昨年9月末で1.0倍だった同社のネットD/Eレシオ(資産負債倍率)は1.3倍前後になる見通しだ。1月20日に記者会見した伊藤忠の岡藤正広社長は「伊藤忠の総資産は三菱商事の半分、三井物産の3分の2でしかない。上位2社に追いつくには優良資産の積み上げが必要だ」と語った。

中国政府との交渉は難航

CITIC株を本当に優良資産にできるかどうかは、これからの伊藤忠、CPとの協業の進展にかかっている。CITICは傘下に中国首位の信託会社や証券会社、同7位の銀行などを抱え、金融を中心に事業を拡大してきた。現在は不動産や資源開発なども手掛けるが、利益の8割を金融に依存している。今後は金融以外の事業を育てて、金融依存率を5割程度まで下げたいというのがCITIC経営陣の考えだ。アグリビジネスでは世界有数の存在であるCPにグローバルな販売網・調達網を持つ総合商社の伊藤忠が加勢すれば、CITICにとっては多角化や海外展開のチャンスが大きく広がる。

ただ、CITICのような大規模な国有企業について、中国政府が20%を超える比率の株を単一企業、しかも外資に渡すことは異例だ。一般の国有企業は国有企業監督管理委員会が所管しているが、CITICは財政部(財務省に相当)が所管している。その財政部は、CPと伊藤忠の提案に対して、中信集団(イコール政府)の保有比率を7割以上に保つことを主張した。

もともとCITICの株式の21%の株式は、政府以外の株主が握っており、財政部の言い分をのめば伊藤忠・CP連合が取得できる株式は10%以下だ。これでは両社の合弁はCITICに持ち分法を適用できず、もちろん伊藤忠の連結決算にも反映されない。

伊藤忠・CP連合は、持ち分法の適用ができる20%を取得するべく、各方面から説得を試みた。最終的には李克強首相にまで案件が上がり、国有企業に国内外の民間資本を導入する「混合所有制」改革の推進という大義名分が優先された。李氏の遼寧省党書記時代に伊藤忠との接点があったこともプラスに働いた模様だ。「1972年に総合商社として初めて友好商社に選ばれて以来の実績」(岡藤社長)が最終的に物を言った。伊藤忠では、CITICが持ち分法適用会社となることで年間700億円程度の利益押し上げ効果を見込む。

CITICの株価は13香港ドル(1香港ドル=約15円)台で推移しており、約15香港ドルの一株あたり純資産を下回っている。国有資産の安売り批判を恐れる財政部はこの状況での株式売却にも難色を示したが、最終的には発表前日の終値に4%上乗せした13.8香港ドルで決着した。

舞台は中国以外の新興国にも広がる

CITICをめぐっては、オーストラリアで展開する、同国最大の磁鉄鉱プロジェクトの先行きが懸念されてきた。13年末から中国向け輸出が始まったが、赤字が続いている。これについては、伊藤忠・CP連合との資本提携発表と同じ20日に「2014年決算で14億~18億米ドルの減損を計上する」と公表。市場の不安心理解消を図った。

すでにCITICは伊藤忠やCPに対して、日本からの流通業の誘致や食品製造事業への進出、インフラ事業などでの協業提案を行っている。今後は、三社のプロジェクトチームでの検討が加速される見通しだ。

舞台は中国だけではなく、東南アジア、ひいてはアフリカまで広く新興国が対象になる。伊藤忠がとったリスクは確かに大きいが、中国、そしてタイの有力企業とがっちり組むことで得るチャンスもまた大きなものといえそうだ。

伊藤忠商事の会社概要 は「四季報オンライン」で