株価急落!なぜ日銀黒田総裁は「追加緩和」を見送ったのか安倍政権への当てつけか、6月緩和への地ならしか

賢者の知恵
株価急落!なぜ日銀黒田総裁は「追加緩和」を見送ったのか安倍政権への当てつけか、6月緩和への地ならしか
現代ビジネス2016年05月02日(月) 小野展克

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48584


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【PHOTO】gettyimages

 文/小野展克(嘉悦大学教授)

日銀は4月28日の金融政策決定会合で金融政策の現状維持を決めた。追加緩和への期待が充満していた市場は黒田日銀の肩透かしを受け、円高・株安が一気に進む大荒れの展開となった。

物価上昇の勢いは衰え、成長率も鈍化、デフレ脱却への道は険しくなっている。この日の決定会合で物価目標の達成時期を「2017年度中」に先送ることを余儀なくされた。

7月の参院選挙をにらみ、政府と呼吸を合わせつつ、日銀の独自性をアピールするなら、今回の決定会合は追加緩和に踏み切る絶妙のタイミングだったはずだ。

では、なぜ黒田東彦総裁は追加緩和を見送ったのか。そこには異次元緩和を拡大させることへの恐怖があるのか、それとも手詰まりなのか、はたまた安倍首相へのメッセージと周到な戦略が潜んでいるのか―。『黒田日銀 最後の賭け』の著者・小野展克氏が検証する。

「黒田日銀最後の賭け」(文春新書) 小野展克著(文藝春秋 842円税込)


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【内容情報】(出版社より)
アベノミクスの成否はすべて金融政策にかかっている。だが、そもそも「異次元緩和」は成功するのか? 新総裁誕生の経緯から、現状、そして今後の見通しまで、黒田日銀のすべてを徹底的に明らかにする。
〈目次〉
第1章 デフレと闘う黒田
第2章 なぜ、黒田が日銀総裁になったのか
第3章 黒田とは何者か
第4章 日銀は何を期待され、何を為してきたのか
第5章 黒田の異次元緩和は成功するのか


黒田日銀 最後の賭け (文春新書)
文藝春秋
小野 展克

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文春新書 小野展克 文藝春秋発行年月:2015年10月20日 予約締切日:2015年10月16日 ペ


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基本情報
発売日: 2015年10月20日頃
著者/編集: 小野展克
出版社: 文藝春秋
サイズ: 新書
ページ数: 250p
ISBNコード: 9784166610471

【内容情報】
アベノミクスの成否はすべて金融政策にかかっている。だが、そもそも「異次元緩和」は成功するのか?新総裁誕生の経緯から、現状、そして今後の見通しまで、黒田日銀のすべてを徹底的に明らかにする。

【目次】
第1章 デフレと闘う黒田
第2章 なぜ、黒田が日銀総裁になったのか
第3章 黒田とは何者か
第4章 日銀は何を期待され、何を為してきたのか
第5章 黒田の異次元緩和は成功するのか

【著者情報】
小野展克(オノノブカツ)
1965年北海道生まれ。慶應義塾大学文学部社会学専攻卒業。嘉悦大学ビジネス創造学部教授、経済ジャーナリスト。専門は、ジャーナリズム論、公共政策論、日本企業論。共同通信社編集局経済部で記者として、財務省、農林水産省、金融庁などの中央省庁、大手銀行、航空会社などを担当。経済産業省キャップ、日本銀行キャップ、編集局経済部次長などを経て、現職。小野一起のペンネームで小説『マネー喰い』(文春文庫)も執筆

異次元緩和の限界

「日本の潜在成長率は異次元緩和を導入してからも0.5~1.0%のまま。ほとんどの要因は技術進歩。労働人口が伸びない中、設備投資による資本ストックの拡大も進んでいない。これで2%も物価を上昇させるには無理がある」

ある日銀幹部は、こう嘆き、異次元緩和の限界を指摘する。

2013年春に黒田が異次元緩和を導入してから大きく円安・株高が進み、失業率も低下した。

しかし今春闘の賃金の伸びは鈍化、消費も足踏み状態で、企業の設備投資も勢いを欠く。黒田日銀が指標とするコアCPI(生鮮食品を除く消費者物価指数)もゼロ近辺に沈んでいる。投資家や消費者が予測する期待物価上昇率も腰折れしつつあり、黒田が狙った「物価観の転換」は想定通りには進んでいない。

異次元緩和が企業経営者のアニマルスピリットを刺激、イノベーションが生まれ、潜在成長率を押し上げるという黒田のシナリオは、うまく作動していない。企業や個人にはデフレマインドが染みついたままなのだ。

日銀内に「猜疑心」が生まれている?

そんな中、デフレ脱却へのカンフル剤として今年1月に導入したのが、マイナス金利だ。ただ、中国を中心とした新興国経済の先行き不透明感に加え、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げテンポの鈍化見通しが、円高ドル安を生み、マイナス金利の効果を砕いた。

さらにマイナス金利で銀行収益が縮小、貸し出し余力が低下しかねないことが景気への悪影響を懸念させた。また大手銀行がマスメディアにマイナス金利への不満を強力に発信、そのイメージは増幅的に悪化した。

マイナス金利は国債の大量買入れを軸とした既存の異次元緩和の枠組みに、新たな選択肢を加え、金融緩和の手段を拡大することに、その本質がある。ただ、そのことが逆に既存の異次元緩和の限界を市場に印象付けることになった。

国債の買い入れ額は年80兆円で、あと5年程度で、すべての国債を日銀が吸い上げてしまいかねない。追加緩和で国債の買い入れ額を膨らませれば、その時間はさらに短くなる。

「追加緩和の手段に限りはない」「マイナス金利は深掘りできる」

黒田がこう主張すればするほど、市場が既存の枠組みによる追加緩和の限界を感じ取る皮肉な構図に陥っているのだ。

こうした背景から、日銀内部でも異次元緩和を司る企画局とそれ以外のセクションに温度差が生まれている。金融政策はインフレ抑制には効果を発揮するが、デフレ脱却を実現するのは難しいという考えが、日銀マンたちに根付いている。

デフレは、人口減少やグローバル化、供給過剰などがもたらす構造的な問題で、日銀が単独でデフレ脱却を実現するのは難しいとの発想だ。

デフレ脱却が実現しない現実を前に、日銀内部で異次元緩和への限界感が急速に強まり、黒田の追加緩和への決断を鈍らせたというのが一つの見立てだ。

見送りは安倍政権へのメッセージか?

一方、追加緩和を促す環境も整っていた。

4月にワシントンで開かれたG20の声明では通貨安競争への懸念が示され、為替介入に釘が刺される一方、「金融、財政政策、構造改革といった全ての政策手段を個別または総合的に用いる」との表現も盛り込まれ、デフレ脱却を目指す異次元緩和の手足を縛る流れは回避された。

「欧州の景気回復に向けてドイツに財政出動を促すのが今回の声明の含意で、日銀の金融緩和を『円安誘導』として批判する流れにはならなかった」(関係者)という。

通貨安は自国経済を刺激する一方、周辺国の競争力にダメージを与える。異次元緩和は円安を進めるため、国際的な批判を浴びるリスクと背中合わせだ。ただ、今回のG20では、異次元緩和叩きのムードはなく、追加緩和が可能な国際環境が整っていた。こうした背景が、市場での追加緩和への期待を広げたのだ。

さらに7月の参議院選挙も追加緩和を後押しする。

安倍晋三首相が景気対策として大型補正と消費増税の延期を検討していることは既定路線だ。追加緩和という強力なエンジンを稼働させて後押ししてほしい、というのは黒田日銀の生みの親である安倍が持つ当然の期待感だろう。7月の参院選挙前の決定会合は、6月15日・16日しか残っていない。

安倍に近い筋は言う。

「大型補正が正式に決まり、安倍首相が消費増税延期を正式に表明する前のタイミングで追加緩和を実施した方が、政治から独立した日銀の判断との印象を与えるので4月は絶好のタイミングだった」

しかし黒田は、この好機を敢えて見送った。その意図は安倍や民間企業に奮起を促す黒田総裁のメッセージだ、との見方もある。

黒田総裁の胸の内

「成長率や賃上げの下振れで2%目標の達成時期が若干後ずれしたことは事実だ」

4月28日の記者会見で黒田は、こう説明した。これまで黒田は物価が上昇しない要因を原油安で説明するケースが多かった。成長率の引き上げは規制緩和などの政府の成長戦略と民間企業の努力が相まって実現する。

公共投資も全国にばらまくスタイルではなく、都市部の空港や道路などに集中的に実施する方が、成長率の引き上げにつながるとの指摘も出ている。

「異次元緩和が生み出した株高で安倍政権の支持率が向上した。安倍首相はそこで生まれた政治的な余力を、すべて安保に費やし、政治的な調整が難しい経済成長戦略に真剣に取り組んでいない、との思いが黒田総裁にはあるのではないか」(黒田に近い筋)との分析もある。

ただ、黒田と以前の日銀総裁との違いは「デフレは日銀の責任で脱却する」と鮮明に宣言したことだ。デフレ脱却の責任を政府や民間に転嫁すれば異次元緩和の根本思想が崩れてしまう。黒田はデフレ脱却のボールを表だって安倍に投げ返すわけにはいかない。

一方、バズーカ第二弾の前には消費増税の必要性を主張した黒田も、今回は沈黙を決め込んでいる。ただ財政健全派の黒田が、消費税増税延期を既定路線化させつつある安倍に不信感を抱いていても何ら不思議ではない。

6月緩和の可能性は?

では6月に追加緩和を実施する可能性はあるのだろうか。安倍のブレインで金融政策に詳しい内閣官房参与の本田悦朗氏は筆者の取材にこう答えた。

「マイナス金利の効果が出るのは時間がかかり、それを見極めたいという黒田総裁の考えは理解できる。ただ、個人的には、6月には追加緩和が実施されることを期待したい」

安倍官邸の追加緩和への期待感は根強い。

一方、FRBは6月も利上げを見送るとの見方が強まっている。これから発表される米の経済指標が悪化すれば、その可能性はさらに高まるだろう。米の利上げ見送りは日米金利差の拡大期待の後退による円高ドル安を生む。一段の円高は株安につながり、デフレ脱却への道をさらに遠のかせる。

「市場が注目しているのは1ドル=105円の節目。それ以上円高が進むと企業が想定している為替レートとの食い違いが広がり、株安が大きく加速するだろう」(外資系金融機関)

マイナス金利の効果を見極めたいとした黒田は「半年も1年もかかることはない。金利は必ず下がり経済に波及する」と指摘する。

6月の決定会合はマイナス金利導入から半年弱だ。4月という好機を敢えて逃す中に、様々なメッセージを滲ませつつ、いざとなれば大胆に動くのは、いかにも豪胆な黒田らしい。

黒田が内外の経済情勢を慎重に精査した上で必要とあらば、大胆な追加緩和に踏み込み可能性はあると考えるべきだろう。