ドル円は年度末95円から来年度90円に進む

ドル円は年度末95円から来年度90円に進む
「緩和=通貨安」の鮮度失い、来年も円高警戒
内田 稔 :三菱東京UFJ銀行 チーフアナリスト
東洋経済ONLINE2016年09月20日

http://toyokeizai.net/articles/-/136652


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黒田総裁はサプライズに頼りすぎて、企業や家計、市場参加者の共鳴を得られなかった?(撮影:今井康一)

9月20~21日にかけて、日本では日本銀行の金融政策決定会合を、米国ではFOMC(連邦公開市場委員会)をそれぞれ控えている。しかし、ここでどのようなアクションが取られても、ドル円相場がドル安円高基調を脱するのは難しいと見ている。

為替市場ではすでにこうした日米の金融政策の格差というものがあまり効かなくなっているためだ。日本の予想実質金利(=名目金利-予想物価上昇率)の高止まりが続くと見込まれる中、日米間の経常収支やインフレ率の格差が重石となり、ドル安円高傾向が続く可能性が高いだろう。

日銀はマイナス金利の深掘りへ

日本では、異次元金融緩和によって予想物価上昇率を高め、予想実質金利を押し下げるというのが日銀の黒田東彦総裁の狙いだが、そのとおりになっていない。市場は原油価格の下落や中国経済の減速などによって、金融緩和によるデフレ脱却が難しいとの見方に転じたためだ。

そのため、今年1月末には、マイナス金利政策を決定し、名目金利を引き下げることによって、予想実質金利を引き下げようとしたが、これもうまくいっていない。かえって副作用が意識されてしまい、予想物価上昇率が低下し、かえって予想実質金利の上昇と円高を招いたからだ(予想実質金利=名目金利‐予想物価上昇率)。

こうした経緯も踏まえ、日銀は9月20~21日の金融政策決定会合で、これまでの金融政策の効果について総括的に検証した結果を公表する、としている。

ここで、日銀が2%という物価目標を下げることはないだろう。多くの先進国の中央銀行が、2%の物価目標を掲げる中、目標を下げれば、購買力平価の観点で言えばその目標の差の分だけ、円高を許容することになるためだ。また、結果的に達成時期が後ズレしようとも、目標達成へのファイティングポーズを示し続けること自体、粘着性の強い日本のデフレマインド払拭に役立つと日銀はみているはずだ。

こうした中、黒田総裁は、9月5日の「きさらぎ会」における講演にて、各主体の調達コストを引き下げたと説明し、マイナス金利政策の効果を強調した。一方、「短期調達・長期運用」を基本構造としている銀行にとって、イールドカーブのフラット化(短期金利と長期金利の差が小さくなること)が収益の悪化と金融仲介機能の低下につながる可能性に留意しなくてはならないとして、その副作用にも言及した。

従来の「銀行のために金融政策をやっているのではない」といった強い口調ではなくなった点が印象的だ。加えて、長期金利の低下による年金や生保の運用難が、貯蓄性の高い保険商品の販売停止や、企業による年金債務の拡大をもたらすなど、マインド悪化が経済活動に悪影響を与える可能性にも言及している。

これらを踏まえれば、日銀が今後、マイナス金利をさらに深掘り(マイナスの金利幅を拡大)する場合に、長期国債の買い入れの柔軟化(減額)によって、イールドカーブのスティープ化(短期金利と長期金利の差が大きくなること)を図る可能性が高い。もちろん、緩和姿勢の後退と映ることを避けるため、長期国債の買い入れを減額する一方、短期から中期の国債買い入れを増やし、全体としての国債買い入れ額は概ね維持するだろう。

しかし、イールドカーブの形状をコントロールすることは容易ではないと考えられる。なぜなら、長期金利の決定要因は、需給のほか、海外債券市場の動向、期待潜在成長率、期待インフレ率、そして財政のリスクプレミアムが複雑に絡み合うためだ。加えて、今まで以上のスピードで償還を迎える国債が増えるため、国債買い入れ額を維持することも、難しさを増すだろう。

サプライズに頼ったことが黒田日銀の誤算

本来であれば、米FRBの金融政策の正常化(利上げ)VS日銀の異次元緩和の継続や拡大(マイナス金利政策の付加)によって、円安が進んでいてもおかしくはなかったはずだ。しかし、そうならずに円高が進んだ最大の理由は、黒田総裁がサプライズに頼り過ぎたためだろう。もちろん、これは予想物価上昇率の押し上げを狙ってのことであろう。

しかし、非伝統的な金融緩和は、企業や家計、市場の日銀の政策に対する共鳴を得て初めて、当局の意図したような期待形成に働きかけることができると考えられる。その点、説明もほとんど行なわれないまま、マイナス金利政策が導入されたとあっては、日銀の政策によって、「これで景気がよくなる」、「これで物価が高まる」という意識が各経済主体や市場に浸透するとは考えにくい。マイナス金利政策のメリットより、副作用に対する不安感がかえって高まったと考えられる。

特に、長らくインフレ率2%程度が当たり前だった米国と、物価が上がらないことに慣れてしまった日本とでは、金融緩和の効き方も異なると考えられる。むしろ事前の十分な市場への説明や対話が求められよう。

とは言え、金融緩和の効果が薄れている理由は、ほかにも考えられる。まず、日米ともに潜在成長率が下がり、自然利子率(景気を熱しも冷ましもしない金利)が下がっている可能性がある。金融政策が働くメカニズムは、景気や物価に中立とされる自然利子率よりも実質金利を下げることで、景気を浮揚させることだ。仮にその自然利子率が下がっているとすれば、実質金利との差が縮小し、景気浮揚効果が弱まっている可能性がある。

特に、予想物価上昇率が2%前後で推移している米国では、実質金利はマイナスとなっているはずだ。しかし、日本の場合、予想物価上昇率がゼロ近辺のため、実質金利はそれほど下がらないということになる。このため、やはり日銀は、実質金利を下げるために、マイナス金利(名目金利)の深掘りという政策をとる可能性が高いだろう。

金融緩和効果が薄れているもう1つの理由は、金融緩和にそもそも賞味期限があるためだ。金融緩和は、生産性を高めるわけではなく、あくまでも通貨安という追い風を利用した景気浮揚のきっかけになるとの側面が強いとみられる。

ただし、この追い風は5年も10年も続くわけではないようだ。リーマンショック後の日米欧の経験則を踏まえると、せいぜい3年だろう。例えば、米国も資産の買い入れ(QE)をQE1、2、3と3回実施したが、ドル安誘導に成功したのは、QE2までだ。2012年9月のQE3以降は、ドルは徐々に持ち直している。日本の場合も、QQE(量的質的緩和)導入以降、2015年半ばまでは円安が続いたが、昨年6月をピークに円高が進んだ。さらにユーロ圏でも、ECB(欧州中央銀行)が2014年6月からマイナス金利政策を導入し、ユーロ安を招いたが、昨年12月の追加緩和以降、いくらマイナス金利幅を拡大しても、もはやユーロ安とはなっていない。

さて、一方の米国の金融政策について見ると、利上げがあるにせよ、いつなのかが不透明である上、あった場合も極めて緩やかなペースという見方が強い。この程度の利上げ観測では、経常収支赤字国通貨であるドルの上昇は容易ではない。もちろん、それでも世界的な低成長が見込まれる中、ドルは新興国通貨などに対しては一定の強さを維持しよう。しかし、経常黒字国通貨である円に対しては、上昇するのは難しく、次第に下落圧力が強まるだろう。

米国景気はピークアアウトした可能性が高い

FRB(米国連邦準備制度理事会)のイエレン議長は8月末のジャクソンホールでの講演でも利上げが近い可能性を市場に示した。しかし、9月の雇用統計が市場予想を下回った上、8月のISM製造業景況感指数が49.4と景気拡大・縮小の分かれ目とされる50を割り込んだ。また、ISM非製造業景況感指数も51.4と2010年2月以来の低水準となっている。米国の景気拡大は8年目に突入しており、ピークに達した可能性を疑う必要がありそうだ。

とくに注目しているのは、米国の新車販売台数だ。2015年10月には季節調整済み年率換算で1800万台を突破するなどITバブル期並みの数字を記録した。しかし、その後は、1700万台、1600万台と減少基調にある。原油価格の下落を追い風に自動車が売れたことが、今回の米国の景気回復局面の一つの象徴でもあり、注意を要する。また、19の労働市場関連の指標から編み出す「労働市場情勢指数」(LMCI)も2016年に入って、1月から6月および8月分がマイナスになるなど、労働市場の改善も既に大きくペースダウンしているとみられる。

このため、時間の経過とともに、景気拡大ペースが鈍り、さらに経済指標が悪化する可能性がある。加えて、仮にトランプ政権が誕生した場合、政策の不連続性が警戒され、12月も利上げどころではなくなる懸念もある。

ここまでの経済指標に照らせば、9月の利上げの可能性はかなり低いが、9月利上げの可能性も完全には排除できないままFOMCを迎えるだろう。もちろん、9月利上げはほとんど見込まれていないため、仮に9月に実施されれば、米国の株式相場などが値崩れを起こしてしまい、円高圧力が高まろう。

いずれにせよ利上げは困難か、あってもあと一回で、来年にかけて打ち止めとなる可能性が高い。もちろん、緩和的な金融政策が続き、ドル高が一服すれば、潜在成長率2%に対し来年は1%~1%半ばと低成長とはなろうが、米国の景気後退入りは回避できそうだ。

年末から年度末は95円前後、来年度は90円に

こうしてみると、FRBによる年内一回あるかどうか程度の利上げや日銀のマイナス金利の深掘りがあっても、ドル安円高基調は変わらないだろう。いずれドル円は100円を割り、今年末~年度末にかけて、95円程度に達すると予想している。

とは言え、今年の年初来8カ月で20円も円高が進んだのは、2014年半ば以降にみられた急激な円安への反動と考えられる。今後も円高が進むが、ペースはかなり緩やかなものとなろう。

OECDが試算する相対的購買力平価は、1ドル=約106円、IMFによる試算で103円だが、為替はいったん、トレンドを帯びて動くと、2~3年は続き、適正水準を超えていく。このため、2017年はもう一段のドル安円高が進み、1ドル=90円前後の水準に絡んでいくとみている。もっとも、米国が景気後退には陥らず、日本もデフレ経済への逆戻りは回避できるとみている。このため、1ドル=90円から多少のオーバーシュートがあったところが今回の円高局面のボトムではないかと予想している。



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