特需」で日本の製造業は大復活する  東芝の大逆転はあるか?半導体新技術の実力

「メモリ特需」で日本の製造業は大復活する
東芝の大逆転はあるか?半導体新技術の実力
泉谷 渉 :ジャーナリスト
東洋経済2017年02月21日

http://toyokeizai.net/articles/-/159107


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フラッシュメモリのマーケットが膨張するとき、その恩恵にあずかるのは半導体メーカーだけではない(写真:bigtora / PIXTA)

360兆円の巨大市場に成長すると予想されるIoT関連産業であるが、その中心となるセンサーやロボットが本格的に稼働し始めるのは、しばらく先の話だ。しかしながら、ビッグデータを使った企業サービスの本格化によってデータセンターの増強が急務となったいま、半導体、特にメモリには、これまでにない規模で爆発的な需要が生まれている。
そして、そのメモリ技術において、圧倒的な強みを持つ企業こそ、現在、経営危機がささやかれている東芝だ。現時点では、東芝の半導体部門の動向は流動的だが、メモリを中心とした半導体特需は窮地に陥っている東芝を救うことができるのか。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者で、近著『日・米・中 IoT最終戦争』を上梓した泉谷渉氏が展望する。

■ハードディスクからフラッシュメモリへの大転換


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『日・米・中 IoT最終戦争: 日本はセンサーとロボットで勝つ』

前回述べたように、IoT関連市場が自動車を超える巨大なマーケットに成長することは間違いない。しかし、「その恩恵は、いつ、どれくらい受けられるのか」という話になると、過去の産業革命がそうだったように、IoTによる革命も1~2年で成し遂げられるものではなく、おそらく今後、20年ほどかけて着実に進んでいくことになると見られていた。したがって、ある程度時間をかけて、日本企業を潤していくものと考えられていた。

ところが、最近になってにわかにモメンタムが変わりつつある。半導体、特にメモリが爆発的な成長を遂げようとしているからだ。

現在、世界のデータセンターの能力はおよそ8ゼタバイトである(1ゼタバイト≒10億テラバイト、1テラバイト≒1000ギガバイト)。言い換えるなら、これが全世界の情報処理量だ。しかし東京オリンピックが開かれる2020年には、これが44ゼタバイトまで達するといわれている。この予測が正しければ、世界のデータセンターのハイエンドサーバーが5倍強に膨らむわけだ。

ここで重要なのは、サーバーにある記憶媒体は何かということだ。ほんの1~2年前まで、その9割以上はハードディスクだった。ハードディスクの世界最大手はアメリカのウエスタンデジタルで、東芝とのかかわりが深い。東芝はかつてアメリカのサンディスクと共同出資でフラッシュメモリを製造していたが、同社が2015年にウエスタンデジタルに買収されたため、必然的に関係が生まれた。ウエスタンデジタルに続くのが、日立や富士通、IBMなど。さらにヒューレット・パッカード(HP)も、サーバー需要の急増を見込んで力を入れている。

しかし、そのHPから、少し前にたいへん興味深い話を聞いた。ここ1年ほどサーバー製造の増強を図ってきたが、そのうちハードディスクの製造が占める割合は20%しかない。40%はフラッシュメモリを搭載したSSD、残りの40%もSSDとハードディスクのハイブリッドの製品であるという。同社は2020年時点のデータセンターについて、現在のハードディスクからすべてフラッシュメモリに置き換わると予測している。それを見据えて増強しているわけだ。

筆者は驚いて日立や富士通にも問い合わせてみたところ、HPと同じ答えが返ってきた。やはり現在のハードディスクは姿を消し、100%フラッシュメモリをコアとするSSDになるという。各社とも、そのための生産体制を整えているところらしい。

現在、フラッシュメモリのマーケットはたかだか3兆~4兆円にすぎない。半導体のマーケット全体が40兆円ほどだから、1割にも満たないわけだ。デジカメ、スマホなどで使われているフラッシュメモリカードが最大の用途だから、当然といえば当然だろう。

もともとハードディスクは丈夫で寿命も長く、しかも安価だ。それに対してフラッシュメモリは、ハードディスクと比べて同容量で価格が6倍ほど高い。だから現状において、フラッシュメモリの出番は限られていた。まして、ハードディスクから置き換わるなど考えられなかったのである。

ただし、フラッシュメモリにはハードディスクより圧倒的に優れている点が1つだけある。処理能力の速さで、その差はおよそ10倍もある。ということは、その演算能力をコストで割ればフラッシュメモリに軍配が上がることになる。HPなど各社はコストよりスピードを重視して、フラッシュメモリに傾注しているわけだ。

■東芝の半導体製造技術は世界一

現在のところ、フラッシュメモリのマーケットはほぼ東芝とサムスンによる一騎打ちの状態になっているが、当初はフラッシュメモリといえば東芝の独壇場だった。ところが、例によってサムスンがコピー製品を作って追随し、2~3年前には東芝を抜いて圧倒的トップの地位を確立した。

そこから東芝も巻き返し、現在は連合を組むウエスタンデジタルと合わせれば、サムスンを抜いてトップに踊り出ている。NAND型フラッシュメモリの世界シェアで見ればサムスンが約33%、東芝・ウエスタンデジタル連合が約36%(東芝は21%、ウエスタンデジタルは15.4%)といったところだ。つまり、この2社で約7割を占めているわけだ。

残る3割については、アメリカのマイクロン、インテル、それに韓国のSKハイニックスが占めている。この5社がほとんどの生産を賄っているが、能力や技術のレベルを考えれば、実質的には東芝とサムスンの2社による一騎打ちの状態である。

ただし、これにはちょっとした注釈が必要だ。サムスンはサーバー系を得意としている。一方の東芝はメモリーカードが強い。ハイエンドサーバーとメモリーカードの単価を比べれば、後者のほうが圧倒的に安い。しかして、東芝はサーバーの強化を打ち出し、サムスンの牙城を崩していく考えだ。

■EUV技術は日本の国家プロジェクト

また、半導体製造の技術面においても東芝には多くの優位性があるのだ。それはなんといっても、EUV(極端紫外線)のプロセスを世界に先駆けて採用し、突っ走っていくということだ。四日市工場内にメモリ研究開発センターもスタートし、これまでのステッパー技術を乗り越えるEUVプロセスの量産技術確立に全力を上げている。

EUV技術は日本の国家プロジェクトであり、製造コストおよび10ナノメートル以下の超微細加工においてサムスン、インテルを上回る最先端製造プロセス採用で抜け出す考えを固めている。消費電力も大幅に減らすことで世界の省エネにも貢献できるのだ。

いずれにせよ、今後しばらくは、この2社にたいへんな追い風が吹くことは間違いない。もちろん、両社もそれを十分に認識している。まずサムスンは2014年10月、1.6兆円を投じて世界最大規模の新工場を建設すると発表。それに対抗するように、東芝も2016年2月、1.5兆円を投資して四日市工場に隣接する20ヘクタールの土地を取得し、新工場を建設すると発表した。この投資額は、日本の半導体メーカーとしては過去最大だ。

この発表に対し、業界やメディアの反応は冷ややかだったが、筆者はそうは思わなかった。1.5兆円を投じての新工場建設は極めてまっとうな投資で、むしろ足りないぐらいである。前述のとおり、フラッシュメモリの需要の急増が見えていたからだ。

ざっと計算したところ、仮に世界のハードディスクのうち、2020年までにかなりの数をフラッシュメモリに置き換えるとしたら、東芝四日市工場と同規模の工場が最低でも20は必要になる。シェアを二分するサムスンとそれを担うとしても、それぞれ10の工場を新設しなければならない。東芝は、そのうちの1つに着手するにすぎないのである。

東芝はもちろん、サムスンもいきなり15兆円(10工場分)の投資はできない。HP(ヒューレット・パッカード)をはじめ、すべてのサーバーメーカーがフラッシュメモリの生産能力増強を半導体メーカーに要請しても、世界の需要増にはとても追いつけないだろう。これが今、半導体業界に起きている大きな変化なのである。

■勢いづく装置メーカーと素材メーカー

そして、フラッシュメモリのマーケットが膨張するとき、その恩恵にあずかるのは半導体メーカーだけではない。その製造工程で必要になる装置のメーカーも潤うはずだ。

たとえばメモリテスター(試験装置)のトップ企業は、断トツで日本のアドバンテストである。先日、同社のトップ陣にお会いすると、笑いが止まらない様子だった。メモリメーカーから事情を聞き、大型の設備投資を準備して増産体制を考えるらしい。

アドバンテストだけではない。メモリの製造工程でウエハに感光剤と現像液を塗るコータ&デベロッパーと呼ばれる装置の製造は、東京エレクトロンが世界第1位のシェアを持っている。同社ももちろん、マーケットの膨張に期待を寄せている。

あるいは東京精密、アルバック、SCREENセミコンダクター、ディスコなど、世界に名だたるトップ装置メーカーの幹部も同様だ。近い将来に訪れる千載一遇のチャンスを、すでに視野に入れているのである。

筆者はかねてからこの点を指摘し、いくつかのコラムにも書いてきた。半導体製造装置メーカー各社の幹部の方々からも、「まったく泉谷君の言うとおりだ」とお墨付きをいただいている。しかし、世界にジャーナリストは星の数ほどいるが、こういうことを初めに書いたのは筆者ただ1人であった。これは自慢ではなく、恥ずかしながら筆者の所属する「産業タイムズ社」にいる約40人の記者でさえ、当初は誰も気づかなかった。それだけ気づきにくい話なのである。

それはともかく、重要なのはここから。先に述べたとおり、日本の半導体デバイスの世界シェアは12〜13%しかない。部門別で世界のトップを走っているのはソニーのCMOSイメージセンサー、東芝のフラッシュメモリ、三菱電機のパワー半導体、日亜化学のLED、ルネサスの車載マイコンのせいぜい5つだ。最も重要なシステムLSIはまったく太刀打ちできないし、DRAMメーカーはもはや日本に存在しない。

しかし半導体製造装置については、日本メーカーがアメリカのメーカーと並んで世界シェアの約3割を持っている。少し前までは5割を占めて世界トップだったが、今はやや力を落とし、欧米と覇権争いを繰り広げている最中だ。

また半導体材料についても、日本メーカーが圧倒的に強い。具体的にはシリコンウエハ(半導体の基板)、フォトマスク(シリコンウエハに焼き付ける回路パターンの”原版”)、フォトレジスト(シリコンウエハに塗る感光剤)の3つが主な材料だが、その世界シェアの5割以上を日本メーカーが持っている。さすが、素材づくりは日本メーカーのお家芸といえるだろう。

つまり今後、半導体設備投資が世界的に活発化すればするほど、日本の関連産業は活況を呈するはずだ。恩恵を受けるのは東芝だけではない。日本製造業全体が特需の恩恵を受けることになる。それは、ほんの数年先、あるいはすでに実現しつつある”近未来予想図”である。

「日・米・中 IoT最終戦争」 泉谷 渉著(東洋経済新報社 1,620円税込)


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【内容情報】(出版社より)
ソニー、東芝は大復活する!
IoT時代、センサー、ロボット、半導体市場の大爆発で、
「ものづくり日本」に猛烈な追い風が吹く!

急成長する巨大市場をめぐる激烈バトルの行方は?
人工知能(AI)や次世代自動車をめぐる世界覇権競争の最新動向

 IoT革命によって生み出される新たな市場は、少なく見積もっても360兆円はあるといわれており、エネルギーの1300兆円、医療の560兆円に次ぐとんでもない新市場が形成されることになる。このIoT革命をめぐって世界の企業は、それこそ死に物狂いでその体制を整えつつある。
 IoTの上流を形成する人工知能(AI)、ハイエンドサーバー、各種のITサービス、自動走行などの車載IoTについては米国がぶっちぎりで疾走しており、これからもその地歩を固めていくだろう。また、中国は今や一般的家電製品については世界チャンピオンであり、太陽電池、液晶などの電子デバイスにおいてもひときわ存在感を放ち始めた。
 こうした米中激突のはざまの中で我が国ニッポンはどう戦っていくのか。今回の本は、日米中が激突する世界IoT革命の中で日本企業がモノづくりの強みを活かし、センサー、ロボット、半導体メモリーなどで一気に抜け出していく、というストーリーを最新取材でまとめあげたものである。(「はじめに」より抜粋)

序 章 1oTが「第4の産業革命」と呼ばれる理由
第1章 巨大市場をめぐって、日本製造業の大攻勢が始まった
第2章 アメリカと中国、2つの大国の次なる戦略
第3章 東芝はフラッシュメモリーで大復活を遂げる
第4章 ソニーはイメージセンサーで再び世界一を目指す
第5章 センサー王国・日本の凄すぎる技術
第6章 次世代自動車をめぐる激烈バトルの行方
第7章 今後5年で7倍に大爆発するロボット市場を制するのは誰か
第8章 1oT最終戦争の行方と日本の選択


日・米・中 IoT最終戦争
東洋経済新報社
泉谷 渉

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泉谷 渉 東洋経済新報社発行年月:2017年01月27日 予約締切日:2017年01月26日 ページ


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商品基本情報
発売日: 2017年01月27日
著者/編集: 泉谷 渉
出版社: 東洋経済新報社
サイズ: 単行本
ページ数: 280p
ISBNコード: 9784492762325

【内容情報】(「BOOK」データベースより)
ソニー、東芝は大復活する!人工知能(AI)や次世代自動車をめぐる世界覇権競争の最新動向。米中の戦略と日本の対抗策。

【目次】(「BOOK」データベースより)
序章 IoTが「第4の産業革命」と呼ばれる理由
第1章 巨大市場をめぐって、日本製造業の大攻勢が始まったーデジタル家電の時代が終わり、次なる闘いはIoTへ
第2章 アメリカと中国、2つの大国の次なる戦略ーIoT市場をめぐる争いは日米中の新・三国志
第3章 東芝はフラッシュメモリーで大復活を遂げるービッグデータ時代の到来で新型半導体の需要は大爆発
第4章 ソニーはイメージセンサーで再び世界一を目指すー“オールジャパン連合”で外国勢を迎え撃つ
第5章 センサー王国・日本の凄すぎる技術ーセンサー市場大爆発で、日本のお家芸に猛烈な追い風が吹く
第6章 次世代自動車をめぐる激烈バトルの行方ー急成長する車載センサー&部品で日本が圧勝する
第7章 今後5年で7倍に大爆発するロボット市場を制するの誰かー「カスタマイズ化」で他を圧倒する日本のロボット技術
第8章 IoT最終戦争の行方と日本の選択

【著者情報】(「BOOK」データベースより)
泉谷渉(イズミヤワタル)
株式会社産業タイムズ社代表取締役社長(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

電子書籍


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